■「働きかた改革」って「休みかた改革」でしたっけ?
まあ、働く時間以外は休んでいるわけですから、同じモノを表裏逆から表現すれば、そういうことになるんでしょうが、ようするに「ゆとり労働」といったところでしょうか。
以前にこのコラムで少しだけ取り上げましたが、働き方改革が片手落ちで進められているような気がしてなりません。労働時間の短縮を主とした「休みかた改革」一辺倒になってしまっているように見えます。労働生産性の向上と労働分配率の改善を伴わないこの種の改革は賃金の上昇や生活の向上にはつながらないように思うんですけどね。
たしか高校の授業だったと記憶していますが、一般に失業率の低下は労働賃金の上昇につながると教わりましたよね。最近では1970年代以来となる有効求人倍率1.49倍、失業率3.1%とほぼ完全雇用に近い状況にもかかわらず労働賃金の上昇がこれに追いついていきません。失業率と賃金の相関を座標平面上にドットで表したものにフィリップス曲線というものがあります。最近の状況をフィリップス曲線で調べてみたところ、明らかに相関が弱くなってきています。一方で、一人あたりの単位時間生産価値である労働生産性と賃金の関係は一次関数的なきれいな正の相関を示し続けているんですよね。現下の状況を端的にいえば、いくら失業率が下がっても、労働生産性の向上がなければ、賃金の上昇はないということなんでしょう。
労働生産性を上げるには、付加価値を大きく含んだ新産業分野の開拓、技術の革新、それと労働力の質(スキル)の向上といったところでしょうか。技術の革新はAIの急速な進歩によって様々な分野で進んでくるでしょうね。すでに製造業では産業用ロボットが活躍していますし、建設業などの現場でも取り入れ始められてきています。近い将来には相当数の職種が人工知能やロボットにとって替わられることが容易に想像できます。
労働力の質という点では、これから先もしばらくの間は「人」にしかできない分野や職種における職能を向上させることが急がれますよね。そこで、その前段階としての教育の役割がさらに重みを増してくることになるんですが・・・これがまた、例の「ゆとり教育」の影響をひきずっているような状況ですからね。
ゆとり教育によってその世代の学力水準は大きく低下しました。ゆとり労働によってこれからの所得水準や社会の豊かさはどうなってしまうんでしょうか。この種の「ゆとり」によってもたらされるものは「ストレス耐性の弱化」と「勘違い」だと思いますよ。
私は、目下すすめられている教育や労働における様々な改革の内容を知れば知るほど、無条件に子供たちの明るい未来を信じる気にはなれなくなっちゃうんですよね。加えて、私自身の安定した老後について少しばかり想像力をめぐらせるとき、恐怖すら覚えることがあります。(苦笑)
Takahide Kita