■男時と女時
やることなすこと全て上手くいく、自分が思い描いたとおりに事が運んでいく。逆に、頑張っているんだけど全てが裏目に出て、とにかくどうしようもない。どんどん自信がなくなり不安で仕方がなくなる。室町時代に能を大成した世阿弥は「風姿花伝」の中で、前者を「男時(おどき)」、後者を「女時(めどき)」と呼んで弟子たちに伝え残しています。
昨今では、ネガティブでアゲインストな状況を「女時」とは何事か!などとお叱りを受けてしまいそうですが、そこはご寛容いただいて話を進めます。
実はこの「男時と女時」、私が大学受験したときに始めて知った言葉なんですよね。その頃、私はZ会の通信添削をやっていたんですが、大学入試本番直前にZ会のほうから激励文をいただきました。その中の主なものが世阿弥の「風姿花伝」からの内容でした。大学受験生でしたから、もちろん世阿弥の残した「風姿花伝」という書の名は知っていましたが、それまでは一度も読んだことがありませんでした。
進学塾で受験指導を担当するようになって以来、子供たちの入試が近づいてくるとしばしばその時のことを思い出します。
入試直前期の受験生の多くは、ここで言う「女時」の状況であろうと思います。自分以外の受験生に勢いがあるように感じたり、本番で失敗した時のイメージばかりを膨らませてしまう。
これを一気に解決するような妙薬はありません。ただ、同じ事をやっていても「時の勢い」というものがあります。そして、この「時の勢い」を作り出すのは、おそらく自分自身の「気」なんでしょうね。
問題点を内側に求めすぎたり、現時点での自分自身を否定的に考えたり、これまでのやり方を急に変えたりなんていうのは、余計に沈んでいくだけという結果になるのではないでしょうか。入試直前のここにきて、「スーパー女時」に突入なんてことになったら目もあてられません。
たとえ不調な状態が続いても、不合格をおそれずに、大胆かつ細心に今までやってきたことの成果を本番で問うだけのことなんだ、といった姿勢で臨んでいくことが大事だと思いますね。
あとは、最後の最後まで諦めることなく人事を尽くせば天運はおのずからその人に傾くのではないでしょうか。
Takahide Kita